「久しぶりだね、日詠くん。」
「・・・三宅教授・・・」
「久保くんにあんなことがあったけれどキミは大丈夫か?」
「僕の配慮が足りなかったばかりに久保くんがこんなことになってしまって・・・申し訳ありません。」
深々と頭を下げながら口にした日詠先生の返答は全くと言っていいほど抑揚がなかった。
「久保くんも優秀な医局員だった。でも、彼に足りなかったのは自分の実力を客観的に把握できていなかったということで、それが今回の件で露呈する形になってしまっただけだ。」
「・・・・・・・・・・」
「それに悪いのは久保くんに冷静な判断をさせる環境を作ってやれなかったこの病院の体制なんだ。」
「・・・・・・・・・・」
眉間に皺を寄せ苦しそうな表情を浮かべた日詠先生。
彼のこんな顔は2度と見たくなかった
あの時・・・まだ祐希がお腹の中にいた時に東京医科薬科大学病院に転院するように勧め、
私に ”自分はできない” と言った・・・あの時の彼の顔と同じだから
「僕はね、以前から産科医師を酷使するようなこの病院の体制に疑問を抱いていてね。久保くんの件についての病院の対応にも不信感を募らせている状況なんだ。」
そんな彼に畳み掛けるように三宅教授という人は言葉を続けた。
「・・・申し訳ありませんでした。」
やっとのことで彼が口にした言葉はやはり、謝罪の言葉。
「日詠くん、キミが謝る必要はない。謝罪すべきなのはこの体制のまま長年それを変えようとしないキミの上司なんだから。まあ、今回のことで久保くんは残念な結果になってしまったが、これをきっかけにウチの医局員をこの病院から完全撤退させようかと検討しているんだ。」
「・・・撤退、ですか・・・?」
右手で聞こえ辛い右耳を押さえながら小さな声でそう呟いた日詠先生の瞳は遠目で見ていても全く色を成していない。
「ああ、だからキミもこんな病院を辞めて、ウチの家内が開業している産婦人科へ来てみたらどうだ?・・・その病院なら、キミが産科医師として大切にしようとしている信念とやらを貫き通すことができると思うが。それにキミみたいな優秀な産科医師の手を待っている妊婦さん達が大勢いるぞ!!」
「・・僕の信念・・・」
日詠先生の信念
それは、彼の ”親父” の信念を守り抜くコト
そのはず



