それでも、遺された俺達は
志半ばで命を絶たなくてはならなかった久保の分まで
自分達に与えられた仕事に対し真摯に取り組まなくてはならない



「日詠先生?あの~」

『・・・えっ、なんでしたっけ?」

「エコーの結果はって・・・その先は?」


集中しないと聴き取りづらい妊婦さんの声を聴き漏らさないように注意しながら。
そして、自分のそんな状況に気が付かれないように細心の注意を払いながら。


『あっ、そうそう。この子、大きな足ですね。将来、楽しみだ。』

「エコーの写真ってここまで見えちゃうんですね。安心します。」

『・・・それはよかった。』

俺はいつもの自分を演じ続けながら、妊婦さん達と向き合うことがこんなにも苦しいことなんて・・・知らなかった。



そして、つかの間の休憩時間はひとりきりで誰にも気を遣うことなく息をつきたくて屋上へ行く。
そして、澄んだ青空を見上げながら目を閉じ、天国へ逝ったであろう久保に向かって手を合わせ冥福を祈る。
その後、天国にいるはずの親父に、久保のことをちゃんと迎えてくれるように願う。


この後もこうやって静かに過ごしたかった時間だったのに

「久しぶりだね、日詠くん。」

この時の俺はそんなことすら許されなかった。