それから、暫くして俺達は業務に差し支えがないように交代で霊安室へ行き、久保の亡骸に手を合わせた。

4日前、ERへ向かう時の久保のやる気にみなぎった顔が蘇る
その時の久保は、俺が羨ましいと言いながら卑屈な態度を見せた以前の彼とは別人のように思えた


あの時、

久保がERへ向かう前に、ERスタッフに難しい症例であれば自分に連絡するように言っておけば、こんなことにならなかったのかもしれないのに


あの時、

自分が執刀していた手術を早く終えて、自分がERへ久保の様子を見に行っていれば
こんなことにならなかったのかもしれないのに


あの時、

久保ではなく、自分がERへ行っていれば
こんなことにならなかったのかもしれないのに



”たられば” が次々と浮かんでしまう



でも、いくらそれが浮かんできても
久保はもう戻って来ない



『久保・・・すまない・・・俺がちゃんとしてやればこんなことにはならなかったのにな・・・』


俺は彼の亡骸の前で手を合わせながら
先輩として何ひとつ彼にしてやれなかった自分を責めることしかできない



それでも俺達、医師は


「日詠先生、こんにちは~」

『こんにちは。えっと、今、妊娠37週でしたっけ?』

「ええ、やっとです。」

『もういつ生まれてきても大丈夫ですね。』

「待ち遠しいうような、不安なような。」

『この週数ぐらいの方は皆さん、そうおっしゃっていますよ。』


胸が引き裂かれるようなことがあっても、何事もなかったかのように診療に当たらなければならない

これから人生の大仕事に挑む妊婦さん達を支える仕事
人が生まれてくるのを支える仕事

その仕事に向き合わなくてはならないのに
大切な仲間の命を亡くし、ずしんと重くなった心で取り組んでいかなければいけないという状況で苦しくて仕方ない