ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



それなのに、俺のその声にゆっくりと頷いて、再びマグカップに唇を寄せた彼女がかすかに浮かべた笑みに俺は安堵感を覚えた。

その後、小さくゴクリとマグカップの中身を飲み込んだ彼女が見開いた瞳。
目を見開いた彼女と同じような想いを共有できそうなこの状況に密かに嬉しいという・・・・こんな想いを抱けたこと
それによっても俺はようやく自分が彼女に・・・伶菜に受け入れてもらえたそんな気がして・・

『それ、飲むと生き返るだろ?俺もそれ、好きなんだ。』

俺はもっと彼女といろいろな想いを共有したい
そう思わずにはいられなかった。


そんな想いが自分の中にあるだなんて自分自身驚く
大人になってからの俺の記憶の中にはそんなことなんてなかったからだ

大人になってからの俺は
幼い頃からずっと抱いていた産婦人科医師になるという夢を果たしたものの
日々の多忙状態を惰性で動き続けているだけというどこか色褪せた自分の世界に居た
それでも不満はなかった

けれども、そんな自分の世界において
少しでもいいから鮮やかな彩りというものを取り戻してみたい
・・・心の中に居続けた彼女の出現によってそんなことも思う


『それ飲み終わったら、栄養補給とお腹の張り止めの点滴を入れるから。』


治療の話をしているのにうっかり緩んでしまわずにはいられない自分の口元を正しながら、彼女にそう伝えた俺は、彼女にゆっくりとその懐かしい味を堪能してもらおうとその場を離れた。