ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「嘘・・・部長、久保くんがって、それ、嘘ですよね?」



奥野さんが震えた声で部長を問い質す。
彼女が言ってくれなかったら、俺が同じことを言ってたかもしれない。


「だって、この前のことがあったとはいえ、随分成長して来ていたじゃないですか・・・だからひとり立ちさせて・・・」

「そうだ。久保くんはここ最近は随分色々できるようになっていた。」

「だから、そんなこと、あるはずないですよね?」

「・・・でも、起こってしまったんだ。」

「そんな・・・」


不眠不休がずっと続いていたせいだろうか?
俺の白衣を握る手の震えが感じ取れるぐらい近くにいるはずの奥野さんと部長のその会話が遠くで話しているように聞こえる

それとも、部長から聞いた話を現実として受け入れられていないせいだろうか?



「電話に出るからちょっと待っていてくれ。」


部長の院内PHSが鳴り、彼は俺達の目の前で電話対応し始める。
珍しく喋るよりも聴くほうが多い部長がようやく通話を終えて俺達のほうを見る。


「こんなことになって非常に無念だ。」

部長のPHSを持つ手は震え、彼は顔を歪ませながら、そう言いながら目をぎゅっと閉じた。



「午前8時48分、ご臨終だそうだ。」



彼の今にも消えそうな声。
そして、俺の白衣を握ったまま激しく震える奥野さんの手。


『・・・・・・・・』


それらが久保が亡くなったという現実は本当だということを物語っていた。