ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




『本当に申し訳ありませんでした。』


俺は久保が分娩対応した患者さんのご主人に、ERスタッフから聴いた内容を丁寧に説明し、お詫びを伝えた。

分娩の際には何が起こってもおかしくない
けれども、骨盤位というリスクがわかった状態で、分娩対応をしっかりと考える必要があった

それについて配慮が不足していたことが明らかであったため、謝罪が必要だと判断したからだ


「なんで、赤ちゃんを取り出した医者がここにいないんですか?」

でも、患者さんやご家族にとっては、その場にいなかった俺が状況説明や謝罪を行っても何ら意味を成さない。
その想いはわかっていたけれど、久保がこの場に出てこれる状況ではなかった。


『申し訳ありません。』


自分で対応するしかないと思った俺はただただ謝るしかなかった。

謝る以外にこのご家族に対して俺ができたのは、
今後のことを考え、整形外科の矢野部長へ分娩状況を伝え、新生児の右腕をしっかりと診て頂くようにお願いすることだけだった。

ご家族への対応を終えた俺は再び、ERのドクタールームへ足を向けた。
そこにいるはずの久保へ、患者家族への対応を行ったことを伝えるために。


『久保、入るぞ。』


久保しかいないと思った俺はそう声をかけてERドクタールームのドアを開けた。
だが、そこに久保の姿はなかった。
代わりにいたのはERの医師だけ。


『あの、久保は・・・?』

「ついさっき、ここから出て行きましたけど。」

『先生方にも対処して頂いて、いろいろすみませんでした。』

「いえ、応援要請したのは、ウチのほうですから。でも、できれば日詠先生に来てもらいたかったなぁ。そうしたら、あんなことにはならなかっただろうにね。」



久保ではなく俺がここへ来ていて、あんなことにならなったかどうかはわからない
出産は安全が当たり前なんかじゃない
出産は何があってもおかしくないんだ



『久保は戻ってきてます?』

「いえ、いらっしゃっていません。」

『どこへ行ってしまったんだ?』

「特に何も聴いてません。」

『もし、久保が戻って来たら、僕が捜していると伝えて下さい。』


久保の姿は産婦人科病棟でも見当たらなかった。
久保の行方を気にしながらも、俺はまた慌しくなった産科での分娩の対応に戻った。