『産科の日詠です。失礼します。』
ERのドクタールームに久保以外の人間がいるかもしれないと予想した俺はちゃんと名を名乗ってから中へ入った。
静かなERのドクタールーム。
久保はERの医師と話をしていると思っていたのに、ERの医師はそこにはおらず、呆然とした表情の久保がひとりきりで椅子に腰かけていた。
『・・・久保?』
「・・・・・・」
返事がない。
こっちも向かない。
そういえば、家族への説明もERの医師が行ったと言っていた
もしかして、久保は自分がすべきことを投げ出してここへ逃げ込んだのか?
『久保・・・何があったのか教えて欲しい。』
「・・・・・・」
ようやく俺のほうを向く久保。
目が死んでいる。
今朝、俺がERへ送り出した彼とは別人のようだ。
『フォローする。だから教えて欲しい。』
「・・・・・・」
返事が返ってくる気配が一切感じられない。
事の重大さが、今、目の前にいる彼からも伝わってくる。
『ERのスタッフに状況確認をすることはお前にも伝えておく。それをして欲しくないなら、今、俺を止めろ。』
「・・・・・・」
完全に焦点が合っていない久保。
自分を止めるだけのエネルギーすら彼にあるとは思えなかった。
『わかった。今から行ってくる。』
この状況に対応するのは、俺しかいないと思った。



