ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




『ER、何だって?』

「久保先生が、緊急搬送された骨盤位(逆子)の妊婦さんの分娩を行ったみたいなんですが、生まれてきた赤ちゃんの右腕に動きがないそうです。」

緊急手術を終えて産科病棟に戻った俺に山村看護主任によって伝えられたERからの伝言。


『ERで分娩?骨盤位なのに、帝王切開にしなかったのか・・?』

「ERからの連絡だったので、そうみたいです。」

『新生児の容態は?』

「右腕以外は大丈夫みたいです。」

『わかりました。ここが終わったら、様子を見てきます。』


俺がさっき感じた胸騒ぎ
それがこんな形に繋がっていたのか?

右腕が動かないのは、脳や脊髄へのダメージではなく、おそらく分娩の時に胎児の腕を強く引っ張ったりして起きる腕神経叢麻痺(わんしんけいそうまひ)だろう

なんで骨盤位のままだったのに経膣分娩を選んだ?
なぜ帝王切開という選択をしなかったんだ?

骨盤位の妊婦の分娩という難しい症例なはずなのに
久保はなんで俺を呼ぼうとしなかったんだ?
自分で何とかできると思ったのか?


頭の中で疑問ばかりが浮かび上がる。
産科病棟での分娩が落ち着いたのを見計らって、急いでERへ向かう。

今、ERがどんな状況なのか
NICU(新生児集中治療室)へは分娩の経緯をきちんと申し送りできているのか
ご家族へはちゃんと説明とかはできているのか

そうやって気持ちが焦るばかり。
急いでいるのに、産科病棟からERがこんなにも遠いと思ったことはない。


『産科の日詠です。緊急搬送された妊婦さんへの対応はどこまで進んでいますか?』

「ベビーはNICUへ入室しました。お母さんのほうは初療室で休まれています。」

『お母さんとご家族への説明は?』

「NICUへの入室に関しては低体重であるためとERのドクターが説明しています。それ以外のことはまだみたいです。」

『・・・ウチの久保は?』

「そこにいらっしゃいます。」

ERの看護師が溜息をつきながら指差したのは、ERのドクタールーム。
そのドアは閉められたままで、中の様子はわからない。


コンコン!!!!