ガチャッ、ギイイィィィ
金属が鈍く擦れる音
所々に赤茶けた錆
少し効きが緩くなっているドアノブ
このドア、こんなにも重かったんだ
あの日、腕に点滴の針が刺さったまま開けたドアがこんなにも古くて、重いものだったなんて、あの当時は気にも留めなかった
あの当時、ひとりぼっちになってしまったと思い込み、自分自身を楽にしてあげるために電車に飛び込もうとした自分が
もしかして死の世界に道連れにしていたかもしれないお腹の中の子供をちゃんと育てられるか不安になって、怖くなって・・・
やっぱり楽になりたくて、無我夢中でこの階段を駆け上がったから
このドアがこんなにも重いものだったなんて気が付かなかった
今、ちゃんと生きているから、感じられる重みなんだ
『今日も、キレイだな~』
心の中でそう呟きながら屋上に足を踏み入れた私の眼前には
あの日と同じようなキレイに澄んだ青空が広がっていた。
そして視線を少しだけ下方にずらすと、白衣を着た背の高い男の人が空を見上げている後ろ姿があった。
やっと、顔が見れる
やっぱりこの場所に居た
空を見上げながらお父さんと話をしてるのかな?
お父さんに愚痴でも聞いてもらってるのかな?
彼の大好物の牛肉コロッケをまたお弁当の中に入れちゃった・・・元気出して欲しくて
だから早くお弁当渡してあげよう♪
『ひーえいせ』
「伶菜ちゃん、ちょっと待って!!」
声がしたほうへすぐさま振り返るとそこには、珍しく神妙な面持ちをした福本さんが立っていた。
「ここから彼に声をかけてもおそらく気がつかないわよ。」
『どういうコトですか?』
こんな静かな中、ただ、空を見上げているだけの日詠先生が私の声に気がつかないわけがないじゃない
じゃあ、何で?



