ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋





入江さんは私に背を向けたまま立ち止まった。


「アイツは不器用だから・・・いつでも自分の気持ちを押し殺してまで相手の気持ちを優先させようとする。だから、アイツの、日詠の手をキミ自ら離してしまうようなコトはして欲しくない。」


えっ?
日詠先生の手を離して欲しくないって
それって、日詠先生の大切な人っていうのが
私だったっていうコト?


『入江さん、日詠先生の大切な人ってもしかして・・・』

「伶菜さん、ゴメン・・・アイツの友人としてキミに教えてあげられるのはここまでだ・・・」


入江さんはそう言った後、ようやく私の方に振り返った。
その時の彼は、私が今日見た中で一番の優しい顔をしていた。
そして、彼は私をベランダに残したままリビングへ入って行ってしまった。




そんな彼の顔を見た私は、結局、自分の聴きたかったコトをしっかり聴くことができなかった
ううん、違う・・・
彼のその優しい顔で聴く必要がないと悟ってしまったんだ

日詠先生の大切な人が誰なのかを
彼のその顔から読み取ることができてしまったから



「ほらっ、日詠、起きろ!明日、出勤だろ?そろそろ風呂入って寝ないと、明日に響くぞ。いつまでも若い気でいると痛い目にあうぞ!!」

「へっ?い、い、入江さん?」

「ほら、寝とぼけてないで起きろ!そういうことなんで、伶菜さん、おやすみなさい・・・」


ベランダからリビングに向かった入江さんは苦笑いしながら、寝起きで半分しか目を開いていない日詠先生の上体をグイッと起こし上げ、寝室のほうへ歩いていくよう日詠先生の背中を押し始めた。


『おやすみなさい、あっ、入江さん、ありがとうございました。私、ようやく自分がどうしたらいいのかわかったような気がします。』

「・・・・・・・・」

入江さんはさっき見せてくれた優しい笑顔で軽く頷き、日詠先生を寝室の方へ連れて行ってしまった。


入江さんが居てくれてよかった
今まで日詠先生のことを兄のような目で温かく見守っていてくれたのが
入江さんでよかった
これからもこのまま、日詠先生と入江さんの関係が続いてくれますように・・・


私は心の中でそう呟きながら、寝室ですやすや眠っている祐希と枕を並べて眠りに就いた。