『いえっ、日詠先生が不器用とかそういうんじゃないんです・・・私が優柔不断なだけというか、自分がどうしたらいいのかを決める勇気がないというか。』
私は入江さんの呟きに対して、一所懸命に否定しながらも自分のふがいなさを改めて思い知らされた。
「フッ、伶菜さんもあんまり器用じゃないんだね・・・じゃあ、さっき言ってたアイツのコト、ひとつだけ教えてあげるっていうのをそろそろ実行しようかな?」
『・・・・・・・・・』
入江さんの口からどんな言葉が出てくるのかが気になって仕方なかった私は黙ったまま小さく頷いた。
「アイツの大切な人っていうのはね・・・」
ああぁぁ、とうとう
私、日詠先生からではなく他人から聴いちゃうなんて、ズルイことしてるけど
彼の大切な人のコト、知っちゃうんだ
もし私が知っている人でも、ガッカリしちゃダメ
日詠先生が想いを寄せる人だもん
きっと私も憧れるような素敵な女性に違いないから・・・
「僕とアイツが出逢った頃、アイツが19才の頃だったかな。アイツが大切な人なんだとポロリと口にした人と、半年前、アイツが電話で口にした人とは全く同一人物だったんだよ・・・」
日詠先生が19才の頃からって、彼は今31才だから
そんなにも長い間、その人のコト想い続けてきたんだ
日詠先生と知り合ってから約半年という私は、その人には到底かなわない
『そんなに長い間、想っている人がいるのに、やっぱり私・・・このまま日詠先生の傍に居てはいけないんだ。』
そう呟いた私を入江さんはなぜか驚いた表情で眺めていた。
そして、小さく笑った。
「伶菜さん。そんなに考え込まなくても、キミはやっぱりそのままで・・・今のままでいいんじゃない?」
奥野先生も入江さんと同じことを言ってたけど
でも、
『でも、それじゃ、日詠先生の大切な人が困っちゃうんじゃ・・・私、妹というだけだし。』
入江さんは笑ったままちょっぴり困った顔も覗かせる。



