「あっ、ごめんなさい・・・こんなトコで煙草を吸ってしまって。すぐ、火、消すね。」

ベランダを覗き込んでいた私に気がついた入江さんは持っていたビールの空き缶の飲み口部分に煙草を押し当て、手際良く吸い殻を缶の中に挿し込んだ。


『あっ、そのまま煙草を吸って頂いてもよかったのに・・・』

「煙草の煙は赤ちゃんにもお母さんにも良くないって聞くからね・・・今、酒を冷まそうとミネラルウオーターを飲んでるけど、一緒に飲む?・・・それとも、水なんて飲む気しないかな?」


入江さんは一度持ち上げた2リットルのミネラルウオーターボトルをすぐに下ろしてしまった。
それでも、私はベランダの入口に置いてあった紙コップを持って彼の前に差し出した。


『いいえ、授乳後で喉、渇いてますから・・・頂きます♪あの、そちらにお邪魔してもいいですか?』

「結構、冷えるけど、どうぞ・・・」

私は柔らかい笑顔を見せてくれた入江さんのほうへ近寄り、紙コップにミネラルウオーターへ注いでもらった。
そして入江さんと私は、月明かりに照らされていたベランダにてふたりきりで肩を並べる。


夜空を眺めていた入江さんの横顔があまりにもキレイで
その横顔に完全に引き込まれてしまった私は自分の胸の鼓動の高鳴りを感じずにはいられなかった。



「伶菜さん。」

『あっ、は、ハイィィ~』

穏やかな口調で名前を呼ばれた私は声が裏返ってしまうぐらいの余計な緊張感に襲われる。


「笠寺は意外と星が見えるんだね……」


ほ、星??


『あっ、そうですね』

うっ、緊張し過ぎて気の利いた返事ができないよ~


「昔さ、学生時代に日詠と僕はイタリア料理店でバイトしていてね・・・バイト帰りに彼とよく飲んだんだけど、終電に乗り遅れて歩いて帰る事もよくあってさ・・・日詠は酒の飲み過ぎで呂律がロクに回らないながらも星の解説するのがお決まりでね。」

『日詠先生、お酒飲むと語るんですね・・・普段、口数少ないのに。』

「そっ!あいつ、イヤなオヤジに大変身。」

ちょっぴりおどけながらそう言った入江さんと目が合ってしまった。


あれっ、なんか私
肩の力がすうーっと抜けた感じがする