【Hiei's eye カルテ33:嫉妬と信頼】



蜜柑大福を箱ごと伶菜に手渡してから風呂に入った俺。
風呂から出てきたら、大福を購入した和菓子屋のしおりに書いておいたメモに気がついた伶菜がその内容について何度も聞いてきた。

別に教えても良かったんだが、伶菜がいろいろと気を遣いそうな気がして教えるのはやめた。

学会で演題発表しようかと考えているデータの処理方法が適正がどうかを確認してもらうために入江さんに電話で依頼した際。

“一緒に住んでいる伶菜さんって本当に存在するのか?だったら一回、会ってみたい。”

とお願いされた俺。

彼にお願い事をしている立場であり、その申し出を(ないがし)ろにすることはできなかった俺は夕飯を食べてから出勤し、午前中いっぱい仕事をしてから名古屋駅で入江さんと待ち合わせをすることにした。

もちろん伶菜と祐希も。


そして残業という罠にはまることなく仕事を無事に終えた俺はようやく待ち合わせ場所の名古屋駅に着いた。
ほんの数十分の仮眠しかとっていないせいか、混雑する駅のコンコースを歩くだけで人酔いしそうな感覚に襲われそうになる。


『ちゃんと彼女達を見つけられるのか?』


人の波の中からお目当ての人を捜すということを殆どしたことがない俺はいざという時のために携帯電話を握り締める。
最近、携帯電話を手にすることが増えたとぼやきながら前へ進む。

すると、

『あっ、いた。』

お目当てのふたりの姿を発見。



『なにをじっと見ているんだ?』

そのふたりはベビーカーに乗った祐希。
そして
遠目で見ても顔がゆるゆるに緩んでいる伶菜。

顔が緩むような対象物はなんだろうと彼女の視線を追う。
その対象物はかなり離れたところにありそうだ。

どうせそれあ彼女の興味がありそうなかわいいディスプレイとか、既に行列を成しているポップコーン屋かと思っていた。

でも、

『捜す手間が省けた。』

それは、モノではなく、俺がお目当ての人として捜していた、もうひとりの人物だった。



『でも、まずは事情聴取だな。』


俺はまだ顔を緩んだままの伶菜のほうへ足を向ける。
余程、集中しているのか、彼女は俺が近付いていることに気が付いてはいない。