『いや、なんでもない・・・・お前、さっき、いつまでココに居てもいいかって聞いたよな?』

伶菜が俺に遠慮して自立するのではなく、彼女に本当に好きな人ができた時までは
せめてこのままでいたい



だから俺は

『お前がココに居ることと奥野さんや三宅のコトはなんら関係ないことだろ?・・・お前がココに居たいだけいればいいし、出て行きたくなったら出て行けばいい・・・・・伶菜自身がそれを決めればいいから。』

こういう曖昧な言い方しかできないんだ


それでも、曖昧な言い方は、時として残酷。

寂しそうな表情を浮かべている伶菜を見て、俺は自分がついさっき言ったことで、彼女をそんな顔にさせてしまったんだとすぐに後悔した。
そうやって後悔している自分を見られたくなくて、彼女に背を向けて部屋から出ようと思った。

だが、背を向け、ドアを開けた瞬間、伶菜に東京行きを告げたあの日の光景を想い出し、
このまま、自分の気持ちを言わないまま、彼女を置き去りにすることもお互いにとって残酷なことだ

・・・・そう思った俺は

『俺はさ、今のままが・・・いいんだけどな・・・・・』

伝えてもいいかもしれないと思った自分の気持ちを
背中越しに
彼女に聞こえるか聞こえないかの声で
彼女の負担にならない程度のギリギリの言葉をポツリと呟いた。



傍に居たいから聞こえていて欲しい

だが、彼女を縛り付けるようなことになって欲しくもないから
聞こえていて欲しくない


2つの相反する感情の間で葛藤している俺に彼女は

「・・・えっ?先生、今、なんて言った?」

聞こえているのか、そうでないのかわからないような絶妙な問いかけをしてくる。


そんな遠くから、そんな大きな声で言われても
ギリギリの言葉といえども、俺の気持ちの成分を多く含んださっきの言葉を大きな声で紡ぐことなんか、さすがに照れくさくてできないだろ?

その言葉を言うことをもったいぶりながら、ようやく考えた答え。


それは

『・・・今のうちに食べるといいぞって言ったんだ・・・蜜柑大福の賞味期限、明日までだからな・・・・』

俺の気持ちの成分なんてほぼゼロに近い蜜柑大福の賞味期限だった。