ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




『本当にありがとうございました。』

「またのお越しをお待ちしております。」


電話で約束した蜜柑大福。
それを準備しておいてくれた和菓子屋へ行き、それを無事受け取り、趣のある門構えの店を後にする。

箱伝いにまだ少し温かみが伝わる作りたての蜜柑大福。
大福の餅の部分もきっと柔らかいはずだ。


『きっと喜んでくれるだろう。』

甘いモノがダイスキな伶菜が蜜柑大福を嬉しそうに頬張る姿が目に浮かぶ
顔が合わせ辛いという想いのせいで、あんなにも足取りが重かったのに、
今は1分1秒でも早くこの蜜柑大福を届けてあげたい


『さあ、帰ろうか。』

その想いが俺の足の爪先をすんなりと自宅のある方向へ向かせた。
運転している途中の長い信号待ちの時に丁度聞こえてきたのは、携帯電話のメールの着信音。


『もしかして、伶菜か?』

彼女のさっきの不可解なメールの原因がわかるかもしれないと慌ててメールを開く。


『なんだ、入江さんか・・・頼んでいたデータ解析、終わったんだな・・・って、なんだよ、コレ。何、考えてるんだ、あの人は。』

悪態をつきながら、俺はそのメールの言うことを聞くことにして、鞄の中から学会の時に貰った製薬会社名が書かれた付箋を取り出した。


『名古屋駅だな。』

そして、信号待ちの度に、入江さんのメールの中にあったお願いに関わる内容を付箋に書き込む作業もを何度か繰り返しているうちに、とうとう自宅駐車場に着いてしまった。

伶菜に会わせる顔がないという想いに対して、作りたての蜜柑大福を早く食べさせてやりたいという気持ちが勝って辿り着いた自宅玄関。
それなのに、いざ自宅玄関の鍵を手にした瞬間、どうやって彼女と向き合えばいいのか?という想いが頭を過ぎる。

だが、このままここに立っているわけにはいかない
そう思った俺は、

『いつも通りでいいんだ、いつも通りで。』

蜜柑大福の入った箱の包みを持つ手にグッと力を入れたまま、玄関の鍵を開け、中へ入る。