【宛先】日詠先生
【題名】伶菜です。
【本文】
お疲れ様です。せっかくですが、もう家に着いちゃいました。



私はかなり冷え込んでいる病院の玄関で足を止めたまま日詠先生にメールを返信した。
そして逃げるように祐希のベビーカーを押しながら病院を後にし、すぐ近くのコンビニでタクシーを呼び、自宅へ帰った。


祐希をベッドに寝かしつけた後、本当ならモップで床掃除でもしたいと思っていたけれど、これから帰ってくるであろう日詠先生とまともに顔を合わせないようにするために祐希と一緒に昼寝をしているというシチュエーションを選択した私。


結局、私、日詠先生から逃げちゃってる
ズルいな、私

でも、日詠先生は昨日の夜
何を思ってあんなコトしたんだろう?

今はどう思ってるんだろう?





ガチャカチャ、ガチャ!


玄関のドアが開いた音。



「あれっ?いないのか?」


彼の呟き声がかすかに聴こえてきたと同時に
私達がいる寝室がほんの少しだけ開き、その隙間からひんやりとした空気が流れ込むと共に廊下の光も漏れ出してきていた。


『あっ・・・』

しまった、寝ているフリをしている私が
彼の呟き声につい反応しちゃった!!!!


「ただいま」

姿が見えないまま、彼の囁き声が聞こえてきた。



『お、かえり、なさい・・』


どうしよう
どうしよう
この後、何を話せばいいの?


「祐希は?」

寝ている祐希を起こさないように配慮してくれているのか相変わらず囁き声のままの日詠先生。



『・・・ぐっすりです』

「そっか、コレ、買ってきたけど、食う?」


寝室のドアの隙間からひょっこりと姿を現したのは
私の大好物のみかん大福を大切に包んでいる上品な箱。


コレ、一日限定30箱販売だからなかなか手に入らないのに
どうやってゲットしたんだろう?

顔合わせ辛いけれど、授乳後に何も口にしてなかったから
みかん大福、食べたい


『・・・食べぇるう~。』


私はちょっぴりマヌケな声を上げながらベッドから起き上がり、祐希を起こさないように忍び足で廊下に出た。