ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



「日詠クン、昨日夜中にコールで呼び出されたんでしょ?」

『ええ、まあ。』

そして、売店で伶菜が喜びそうなチョコを探していると、サンドイッチとカフェオレを手にした奥野さんに声をかけられた。


「お疲れ様。大変だったみたいね。」

『俺も反省すること、いっぱいで。』

「色々考えさせられるわよね。」


久保の指導で俺と同じように手を焼いている彼女も労いの言葉をかけてくれながらも表情が曇った。

奥野さんも久保の指導とかで何かあったのか?



「今日、気になる患者さんとかいる?」

『とりあえずは担当している患者さん達は落ち着いてます。』

「じゃあ、今日はもう帰ったら。確か明日からまた、連続勤務でしょ?研究会の資料作りはあたしがやっておくから。」

『でも、奥野さんも今日は手いっぱいなんじゃ・・・』

「そうでもないわよ。だから帰りな。先輩の命令には絶対服従よ。」


こういう時だけ先輩風を吹かせる
俺を甘やかそうとするそんな風

でも、本当のところは
伶菜がいる家に早く帰れという
そういう合図なんだと思う

さっき弁当の受け渡しで伶菜と会っているはずだから
この人も福本さんと同様に伶菜を大切にしてくれている人だから

ということは
伶菜に何かあったのか?

正直なところ、昨晩のこともあって
まだ顔、合わせにくいけどな


『先輩の命令には確かに絶対服従ですよね。じゃあ、お言葉に甘えます。』

「寄り道しないで、真っ直ぐ帰りなよ。」


少し背伸びをして俺の肩をバシっと叩いた先輩は、”もっと美味しそうなものをお土産にしないとね” と耳打ちしてからレジへ行ってしまった。



『チョコじゃダメらしいな。』


俺は手にしていた期間限定の生チョコを陳列棚に戻し、御馴染みの缶コーヒーだけを買って売店を出た。

帰宅するために着替えようと医局へ戻る途中。
通りかかった病院玄関で偶然見つけてしまった人物。

ここに来たのは弁当の存在でわかっていたが、もう帰ったと思っていたその人。
偶然という勢いで、声をかけるきっかけができたと思ったが、止めた。

三宅がその様子をちょうど見かけたりして、もっと深く踏み込まれたりするのが嫌だったから。


『でも折角の ”きっかけ” だしな。』


俺は白衣のポケットに入っていた携帯電話をグッと握り締めた。