「日詠先生、ありがとうございました・・・」

『お疲れ様。』

「あの・・・俺、慌てるばかりで何もできませんでした。」

肩を落とし、俺に頭を下げる久保。


一通りの産婦人科業務が出来始めてきて、自信もついてきた今、ぶつかった壁
それは誰もが通る道
これを乗り越えなくては、本当に一人前になったとは言えない


『できないことばかりに囚われていても、何も始まらないだろ?』

「でも・・・」

『お前がやることはさ、今日、自分がどう動けばよかったかということを考えることだろう?違うか?』


甘い言葉をかけてやってもいいかもしれない
でも、出来なかった自分にいつまでも悲観しているよりも
どうすれば出来るようになるのかを考えることのほうが大切だし、
医師として成長するためにそれは必要不可欠なんだと俺は思う


「日詠先生はできる人だから、そういう考え方ができるんだと思います。」

『・・俺ができる人?』

「周りも患者さんも、みんなそう言ってます。日詠先生に任せておけば大丈夫だって。」

『買い被りすぎなだけだ。』

「名古屋医大の三宅教授だって、そう言ってます。」


業務に集中していたのに、三宅教授と聞いて、彼の娘である三宅のことを想い出した。
まだ勤務時間中だから、業務に集中したいのに。



『それも知らない、俺は。それに、三宅教授は今、直接、関係ないだろ?どういうことなんだよ?』

「羨ましいんです。日詠先生が。」

『何がだよ?』

妊婦さんの緊急を要する治療が上手く行っていなかった久保。
彼の言動からも落ち込んでいるとわかっているのに、業務に集中し切れなくなった俺はイラ立ちを隠せない。



「誰からも頼りにされて、それに応えるだけの技量もあって・・・」

『技量がある?誰からも頼りにされる?』

買い被り過ぎている久保のその発言に嫌気がさした俺は、とうとう彼を壁際に追い込んでグッと睨みをきかせた。