【Hiei's eye ケース29:鋭い嗅覚が脅かすモノ】



同居し始めて暫くが経ったある日。
伶菜が祐希の心臓の定期健診のためにウチの病院にやって来た時のこと。

診察室へ向かう予定の彼女達よりも一足早く会議室に向かった俺。
遅刻したもののカンファレンスは無事終了し、帰宅準備をしている最中、
名古屋医大時代からの同期である内科女性医師の三宅に声をかけられた。

俺に飲みに行こうと誘ってくれた彼女。
でも、飲みに行くよりも、伶菜達に夕飯を作ってやりたい俺はその誘いを断る。

いつもなら、断っても何度か行こうよと誘われるのだが、今日の三宅は思っていたよりも早く引き下がってくれた。
そしてまた誰かに捕まったらまた帰る時間が遅くなると思い、急いで病院を出た。



冬という季節だけあって、辺りはもう真っ暗だが、時計を見るとまだ夕飯か夕飯前ぐらいの時間帯。

『今日はまだ魚介類もいっぱい揃っているから、助かるな。』

購入しようと思っていた食材は簡単に手に入り、再び急ぎ足で自宅へ向かう。


帰宅する直前の習慣になった ”自宅の明かりが灯っているか” の目視。
真っ暗で当たり前だった自宅に灯る明かりの存在により一層、足取りが軽くなる。
本当なら今日もそのはずだった。


『飼い猫とかって、よく考えると失礼だ。』

でも、今日という日は三宅が口にした飼い猫発言が俺の足枷(あしかせ)になっている。