「このままだと身体、冷えちゃうからすぐに風呂入れな。沸かしてあるからさ・・」


抱き寄せられてから1分ぐらい経った頃。

今度は私の身体に包んでいた彼の左腕がさっと離れ、私の鼻をくすぐっていたグレープフルーツミントの香りも薄らいでしまった。
そして、彼は私と視線が合わないうちにベランダから部屋へ戻ってしまった。


『どうしたのかな?日詠先生・・・』


私と先生は兄と妹という関係なんだから
彼が私を異性として意識してしまい抱きしめるとか、そういうコトはなさそうだし

やっぱり疲れてたのかな
忙しそうだったし

ちょっとでも元気が出るように
明日、先生の大好物の牛肉コロッケ入りのお弁当を作って届けてあげようかな


『お風呂、先に頂くね。』


私は彼に言われた通り、お風呂に入って身体を温めながらそんなことを考えていた。

その後、夜中の2時に祐希の授乳で起きた時には何も置いていなかったダイニングテーブルの上。
朝の6時に再び起きた時にはそこに黄色いメモ用紙とボールペンが並べて置かれていた。


《おはよう  病院から緊急コールが入ったので出勤する》


それは達筆の日詠先生が書いたとは思えないくらい殴り書きに近い文字。


『よっぽど急いでいたんだ。』


昨日の夜、先生とあんなコトがあったばかりだから、なんか面と向かって顔を合わせ辛かったからちょっぴりホッとしてしまう
でもいつまでもこんなにぎこちない空気でいるのに耐えられないから
お弁当でも届けて、なんでもいいから彼と話すきっかけを作ろうかな


『よし~、コロッケ作ろ!』


私は早速、お弁当を作り、それを持参しながら祐希と一緒に日詠先生が勤務する病院まで歩いて
行った。