そして、お腹が空き過ぎてしまった私達は出来上がったばかりのアツアツのペスカトーレと既に作ってあったカチャトーレを黙々と平らげてしまった。
もちろんガーリックトーストも完食!
すっかり食べ過ぎた私は、冷たい風に当たりたくなって食後すぐにベランダに出た。


名古屋市内でもここ笠寺は比較的ネオンが少なく、マンションの周囲に一戸建てが並んでいる。
それもあってかベランダから見る夜空でも結構小さい星まで見つけることができるけれど、この日は雲が多かったせいか星の数が少ないのはもちろん、月もぼやけて見える。


『夜空見る事が増えたな~。』


お父さんもプラネタリウム以外でもこうやって夜空を眺めていたのかな?
お父さんの口から直接星の話、聞いてみたかったな
月の話もね


それだけじゃなくて
お母さんとの出逢いのきっかけとか
日詠先生が産まれた時の話とか


『お父さんに聞きたかったコト、いろいろあるんだよ・・・・』

胸がモヤモヤする感覚から逃避しようとしていた私がぼやけて見えた月に向かってそう呟いた瞬間。


『・・センセイ?』


右側から腕を引かれた勢いで体が傾き、彼の肩にもたれかかるような格好になった。
私は反射的に体を立て直そうとしたのに、私の頭は彼の手によってその動きを遮られながら再び彼の肩のほうへ引き寄せられた。
その瞬間、自分の鼻をくすぐったグレープフルーツミントの香り。
彼の片腕の中にすっぽりと収まってしまった私のカラダはその香りのせいもあって身動き一つ取れない。


「・・・ごめん。このままでいて。」

『・・・・先生?』


彼の腕の中にいるまま、どうしたらいいのかわからない私が再度彼に声をかけた瞬間。
彼の左腕の力が更に強まる。


「・・・ちょっとだけでいいから、このままでいてくれ。」



以前も同じようなことがあった
私が妊娠中に彼が従事している病院に入院中
背後から抱きしめられた時は彼が居眠りをしてしまった事故みたいなものだった
それでも、胸がドキドキする高揚するような感覚に囚われた

そしてここで暮らし始め、ベランダで彼と私の過去の話をしている時
その時も背後から抱きしめられたけれど
ドキドキよりも孤独感から解放された安堵感に包まれた

そして、今。
背後からではなく真横から彼の片腕の中へ引き寄せられてしまっている今
なぜか、切なくて胸が締め付けられる感じがする
なんで、なのかな・・・?