ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




昼間、病院で見かけた日詠先生の不機嫌そうな顔が別人だったように思えちゃう

そういえば、今日の昼間、あの白衣の女性と目が合ったちょっと前まで、日詠先生もその場にいたっけ?
もしかしてその女性、先生の知り合いかな・・・?


『先生?』

「ん?何?」


日詠先生は海老の殻をパリパリと手際良く剥きながら私の方を向いてくれた。


『今日の昼間、病院の受付で私達と立ち話していた時に黒いハイヒールを履いた白衣の女性を見かけなかった?』

彼は瞬時に眉間に皺を寄せる。


「・・・白衣の女性、ね・・・」

殻を剥き終わった海老を指で摘んだまま首を傾げている彼。


「どんな人だ?」

『髪をアップしていて、凄くキレイな人・・だったかな・・・・・』

私としては、その女性が日詠先生の知り合いかどうかだけを確認したかっただけだから、特に躊躇うことなく、その女性の外見を伝えていた。


「・・・・あの時間、受付にはたくさん人がいたからな。それだけのヒントじゃわからんな。」

『そうだよね。』

「でも、なにかあったのか?その人と・・・」


急に心配そうな顔を見せた彼。



あんまり心配かけたくないな
日詠先生、今日は早く帰って来れたけれど
昨日なんかは急患が続いて結局帰って来れなかったぐらい忙しそうだし
だから、あんまり余計な心配かけたくない

それにその白衣姿の女性の視線が冷たく感じたのも
私の気のせいかもしれないし


『ううん・・・何にもないよ。ただ、キレイな人だったな・・と思っただけだよ♪』


昼間からまだなんとなく続いている胸のモヤモヤ感が彼に伝わらないように私は軽い口調でそう答えた。


「ふ~ん。じゃ、別にいいんだよな。」

そんな私とは対照的に、彼の口調はなんだか後味が良くない感じ。

先生に余計なことを聴いちゃったせいで
なんか重苦しい空気になっちゃったなぁ
折角、先生が腕を振るって作ってくれたペスカトーレ、美味しく食べたいし


『いいです!・・・先生、手伝います!!』

私は自分でズルイとわかっていながらも、その話題からスルリと離れてしまうことにした。


「じゃあ、アサリを。一応砂出ししてくれるか?既に砂出ししてあるものを買っては来たけど・・砂が残っていてジャリジャリするのもヤだしな。」

彼もいとも簡単に私の誘導にノッてしまう。
きっと彼も、重苦しい空気のままいるのが耐えられなかったんだろう。


『ラジャ♪』

自分の蒔いた種によって重苦しい空気を作り出してしまった私は
警察官のような敬礼のポーズを見せることでいつもの穏やかな空気を取り戻そうと自分なりに努力した。