「福本さん、会議。既に遅刻してるんだから、早く!!」
そんな中、ベビーカーの傍で床にしゃがみ込んでいる私達の頭上から聞こえてきたのは、ちょっぴり呆れているような凄く聞き覚えある声。
「あ~ら、日詠センセ。伶菜ちゃん、いえ高梨さんが丁度子供さんの検診でいらっしゃってて・・・久しぶりだからお話してたんですーってんだ!・・・先生も高梨さんにお会いするの、久しぶりなんでしょ?」
なぜかちょっぴり威圧的な返事をした福本さんの声を耳にした日詠先生は、ベビーカーを挟んで福本さんの反対側にいた私の存在にようやく気が付き、瞬時に目を逸らす。
「ああ、いや、その・・・」
歯切れの悪い口調の日詠先生。
無理もない
私と会うのは久しぶりなんかじゃなくて、ほぼ毎日、顔を合わせているんだから
「日詠先生?ん???尚史クン??何かな?何を隠してるのかな?まさか、私に隠し事なんてしてないでしょうね?」
『何を今更・・・』
「今更って、もしそんなコトがあったら、アナタのメルアドを聞いてくる若手のオンナ盛りのナース諸君にキミのアドレス、リークしちゃおっかな・・・」
えっ?
オンナ盛りの看護師さん達に日詠先生のアドレスをリーク?!
デートのお誘いメールとか
好きですっている告白メールとか
そういうメールが来ちゃったりするの?
「そうなったら途切れることのないメール着信音でも仮眠すらさせて貰えないかもよ!!うふふっ、どう?そんな色気のある生活もいいかもね、ナオフミく~ん♪」
「・・・・福本さん、ソレ、立派な個人情報の漏洩です。」
よっぽどメールアドレスを他の看護師さん達に知られたくなかったのか
日詠先生は珍しくムッとした表情をしながら吐き捨てるようにそう言い放った。
日詠先生ぐらいモテそうな人なら、彼のメールアドレスを聴き出す女性とか結構いそうなのに、意外とアドレスを他人に教えていないんだ・・・
「あっそ。それが法律的にNGならば、日詠先生の医局のデスクの引き出しに ”家族で楽しむお出かけガイド” っていう本がドックイヤー付きで入れられているコトを彼女らの前で呟いちゃおうかな・・・・」
福本さんも負けじとそう言い返しながら意地悪そうな笑みを浮かべる。
そして、日詠先生は横目で軽く福本さんを睨みながら、フウッと大きな溜息をついた。
「一緒に、住んでるんですよ。」
「へぇ、病院イチのモテ男の爆弾発言!!!・・・誰と?誰と一緒に住んでるのかな??ナオフミくん?」
彼に睨まれているにも関わらず、全く怯むことのない福本さん。
怯まないどころか凄く楽しそうに日詠先生の顔を覗きこんでいる。



