欲深くなっている俺。
俺が帰ってくるまで起きていられなかったと肩を落とした伶菜をどうにかしてあげたいという気にもなった。
そして、自分勝手だとわかっていながらも、寝室で寝ていたかもしれない彼女を呼び出した。
寝室から出てきたのは、自分が帰宅直後に目を覚ましたちょっとぼんやりとした彼女とは異なり、小さな声で俯き加減の彼女。
まだ元気がないと察した俺はベランダへ向かい、また彼女に手招きする。
俺なりに考え思いついた気分転換の場所がベランダだったから。
『今日、キレイな三日月なんだよな・・・』
「あっ、ホントだ・・・」
病院からの帰り道で見かけた群青色の空に浮かぶ月。
それが、幼い頃、とても大切な日に見た月と同じ
・・・・三日月。
それがちゃんと見えるこのベランダ。
『キミが産まれた日もさ・・・こんなキレイな三日月が空に浮かんでいた日だった。』
俯き加減だった彼女に顔を上げて欲しかった。
一緒に見上げたくなった。
『俺が産まれたてのキミを見に病院へ行った帰りに親父とさ、手を繋いで歩きながらその三日月を見たんだ・・・キミが産まれてきたその日は本当に嬉しくて、今でもその帰り道のコトまでハッキリと覚えてる・・・・その日のコトを。』
彼女が生まれた日に見た月と同じこの月の下で、
彼女と俺を癒し続けるホットミルクを飲みながら、
この月を一緒に見たくなった理由を話しておきたかった。
『俺は、キミが・・・お前が・・・ココに、俺の傍にいてくれればそれでいい。』
「日詠先生・・・・。」
『だから、そんなに肩肘張ったままで俺に気を遣うな。』
彼女が明日からでもここで深呼吸しながら生活できるようにしてやりたい
そのためにも、今日のうちに彼女との距離を少しでもいいから縮めておきたい
そうも思ったから。



