ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



浴室に隣接している洗面所。
そこで衣服を脱いでいる時に見つけたモノ。
それは、洗面台の隅に置かれていた桜色の携帯用歯ブラシケース。

それは自分のものではなく、今までここにはなかったモノ。
でも、携帯用というだけあって、歯ブラシも歯磨き粉も小さめ。


『歯ブラシ立ても買っておかないとな。』


携帯用ではなく、
ここで彼女が生活するための
ここが彼女の家になるための
それらに必要なもののひとつだろうから


『今日、ずっとここに居て、きっと不便だっただろうな。足りないものはどんなものなんだろうか?』

そう呟きながら浴室のドアを開ける。
いつも自分が使う時はカラカラに乾いている浴室。
少し肌寒くなってきたこの時期はひんやりしているこの場所なのに、今日はほんのりとあたたかい。

そのあたたかい空気に乗って漂う甘い香り。
多分、パッションフルーツ系。
俺の鼻が覚えている甘い香りと同じ香り。

その香りの源になっているであろう小さなシャワージェルのボトル。
それが俺の使っている大きなシャワージェルの隣に蓋が空いたまま置かれている。


『祐希と一緒に風呂に入って、バタバタして蓋閉めるのを忘れたんだな、きっと。』


蓋を閉めながら、伶菜のシャワージェルのラベルを目に焼き付ける。
また彼女にとって必要なものが見つかったから。
でも、それがどこに売っているかわからない


『今度、一緒に買い物に行って、もっと大きいサイズのボトルを買ってあげよう。』


ついでに歯ブラシ立ても一緒に選ぼう

次、休日が取れるのはいつだろう?
他にも必要なものを買い揃えたほうがいいだろうから、時間がかかるかもしれないな

祐希も一緒に入ってゆっくり休憩しながらランチができる店を探しておこうか
どんなものが食べたいんだろう?
何時頃に出かければいいんだろう?



やや熱めのシャワーを浴びながら、伶菜と祐希と過ごすであろう休日のことを俺なりに一生懸命考えた。

一生懸命考えなくてはならなかったのは、
俺が今までそういうことをわざわざ考えるようなことをしていなかったから

ほら、また
俺の色褪せた生活に鮮やかな色が差し込んだ
これからそれがどれだけ色鮮やかになるんだろう?

もっともっと鮮やかにしたい
彼女と彼女の息子がいる新しく始まったこの生活を・・・・

欲深くそう思った俺は、勢い良く出ていたシャワーを止めて、浴室を出た。