彼女達がちゃんと眠れているか急に気になった俺は
彼女達を起こさないようにそっと寝室のドアを開ける。
オレンジの灯りの下、ベビーベッドの上でもごもごと動いている祐希を見つける。
そのとなりにはベビーベッドの上に手を伸ばしたまま目を閉じている伶菜の姿がちゃんとそこにあった。
お腹が空いたと泣き出しそうな祐希を抱き上げて、ここでは泣かないようにと口元で指を立てて彼に合図する。
彼がその合図がわかるはずもないのに、眠っている伶菜を起こさないように必死な俺。
その流れで黙って開けたドアを閉めればよかったのに、
『ごちそうさま。』
まだ甘酸っぱい味がかすかに残る口元がそうさせてはくれなかった。
「じゅっ、11時半?!」
『悪い。起こしちゃったみたいで。』
「・・・先生、おかえりなさい。スミマセン、うっかり眠っちゃってて・・・・」
俺の配慮の足りなさで起きてしまった伶菜。
申し訳なさを感じながらも、目の前で必死に額を隠しながらあたふたしている彼女の姿によって、その申し訳なさもどこかへ吹き飛んでしまう。
でも、どこかへ飛んで行ったと思っていたその申し訳なさ。
「あの・・・実は澄まし汁もあって、ゴメンナサイ・・・温めてお出ししようと思ったのに。」
それは伶菜の元へ飛んで行ってしまったみたいだった。
伝染してしまった”申し訳なさ”
多分、お互いに気を遣い過ぎているせいだ
このままじゃ、お互いが持たない
『そんなコトまで気を遣わなくてもいい。ちゃんと温めて食べたから・・・・』
俺としては珍しくハッキリそう言ったのに、まだ肩の力が抜けない彼女。
多分、俺が緊張しているのも伝わるのか?
『さ、祐希も腹が減っているみたいだ。俺、その間、風呂入ってくるから。』
だったら、俺のペースで動いてみよう
俺が緊張しているままじゃ、伶菜も身動きが取れないだろうから
「あっ、ハイ。」
『じゃ、よろしくな!』
俺は一瞬力抜けたように見えた伶菜の肩の様子に少しだけ安堵し、浴室へ向かった。



