ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




『日詠先生・・・・。』


緊張し過ぎて、自分がどうしたらいいのかわからない私のことを見透かされていたんだね
私のことを”キミ” ではなく ”お前” と言い直してくれた
アナタに・・・・・


「だから、そんなに肩肘張ったままで俺に気を遣うな。」


ハッキリとした音になりきれていないようなその囁き声が自分の背中の方から聴こえてきた。
それとほぼ同時で私の肩にはフリース素材の膝掛けらしきものがフワリと掛けられた。


『・・・先生?』

「そんなに気ばかり遣ってないで・・・お前はもっとオレに甘えればいい。」


相変わらず大きいとは言えない声。
でも、今度はちゃんと聞こえた。
聞き逃さないように耳を傾けていた成果。


「今までお前を女手ひとつで育ててくれたお袋にさえ気を遣って甘えることができていなかったんだろう?」

『・・・・・・・・・』

「今、未熟ながらも俺がこうやってやって行けているのは親父とお袋にちゃんと甘えられる場所を与えて貰っていたから・・・」


どういう理由で東京の日詠先生の元へ行ったのかはわからない
でも、日詠先生がウチの両親に感謝していることはよくわかる

私は物心着いた時にはお父さんの記憶がなかったんだけど、
お父さんがいた頃のウチの家族はきっと凄くあったかい家族だったんだね

幼い頃の日詠先生が大切な時間を過ごせていたことがわかってちょっと安心する



「だから、今度は・・・今度こそ・・・俺じゃ力不足かもしれないけれど・・・お前にそういう場所を与えてあげたいんだ。」



日詠先生がどうして私達と一緒に住もうって言ってくれた理由
それがわかった気がする

もしかしたら、家族の温かさというものを
お父さんの代わりに教えてくれようとしているのかな?

だから命を消そうとしていた私は日詠先生と出逢えたのかな?


生きてさえいれば何かが変わる
前を向いていれば、未来が拓かれる

改めてそう思えるんだ
今、隣に居てくれる日詠先生のおかげで・・・