さっきまでうっかり眠ってしまい日詠先生の帰りを待つことができなかったコトをただただ後悔してばかりいた私。
それなのに、空に浮かぶキレイな三日月を見た瞬間、その後悔がどこかに消えてしまったぐらい穏やかな気持ちになっていた。
「あっ、ちょっと冷えるけどこのまま、このまま居てくれる?大丈夫?」
『ハ、、イ。』
何だろう?このまま三日月を見ていても、いいのかな?と思いながら、ベランダから部屋の中へ入って行った日詠先生を追うことなく、また空を見上げていた。
それからどれくらい経ったんだろう?
「ハイ、コレ、飲むか?」
暫くして私の背中の方から聴こえてきた声。
『?・・・ホットミルク!!』
私は振り返りながらそう声をあげてしまった。
「正解。祐希の授乳後で甘いモノが欲しいだろうし、今日はちょっぴり冷えるから・・特に美味いぞ、きっと。」
日詠先生は満面の笑みを浮かべながらホットミルクをこぼさないように慎重にベランダの引き戸のレールを跨ぎ、私に湯気の立っている温かいマグカップを手渡してくれた。
『ありがとうございます。あったかい・・・頂きます!』
「どうぞ。」
私の気持ちを軽くしてくれた三日月の淡い月明かりの下で、私は元気良くそう答えながら彼の手からそれを受け取った。
手が空いた彼は再びベランダの柵に肘をつきながら再び三日月の方を眺め、その隣で私は湯気の立っているマグカップにそっと口付ける。
やっぱり、あの味
懐かしい、母の味でもあり
日詠先生の味でもある
あの味
「キミが産まれた日もさ・・・こんなキレイな三日月が空に浮かんでいた日だった。」
月明かりに照らされる彼の横顔。
鼻筋がクッキリと浮かび上がるキレイな横顔。
「俺が産まれたてのキミを見に病院へ行った帰りに親父とさ、手を繋いで歩きながらその三日月を見たんだ・・・キミが産まれてきたその日は本当に嬉しくて、今でもその帰り道のコトまでハッキリと覚えてる・・・・その日のコトを。」
でもその横顔は
懐かしさ
そして
寂しさが入り混じっている
なぜかそんな風に見えた。
その瞬間、私は胸がグッと締め付けられるような感覚を覚える。
そんな私を知ってか知らずか、
「だから俺は、キミが・・・お前が・・・ココに、俺の傍にいてくれればそれでいい。」
彼は再び徐に口を開きそう呟いた。



