ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




彼がお風呂に入っている間、私は祐希に授乳し終えて寝かし付けまで行う。
うっかりと居眠りをしてしまった私はベッドの上で祐希の寝かしつけをしていても、自分の目はパッチリ。

今の自分ができることは反省することぐらい。


はぁ~今日なんだか冷えるし
温かい澄まし汁を自分の手で先生に渡してあげたかったな

うっかり眠ってしまったりして
しかも祐希が目を覚ましたことにも気付かずに寝入ってしまっていて

先生の為に、何かをしてあげたいと思っているのに
全然、ダメだ、私・・・




ガ・・チャ・・・・


私と祐希がいる寝室のドアが静かに少しだけ開き、廊下の光が寝室内に少しだけ漏れてくる。

「祐希寝た?ドア開けてもいいか?」

姿は見えないもののドアの隙間から聞こえてくる日詠先生の囁き声。


『ハイ、寝ました・・・ど、どうぞ。』

「良かったら、こっちおいで。」

ゆっくりと開いたドアの向こう側。
バスタオルで髪を軽く拭きながら私の方に向かって指先だけで小さく手招きをしている日詠先生の姿があった。


どんな用事なのか全く検討がつかない私は、祐希にそっと布団をかけてから手招きされるがまま日詠先生の後ろをついて行く。


Tシャツ姿でバスタオルが肩に掛けられたお風呂上りの彼。
バスルームに置いてあったグレープフルーツミントのシャワージェルの香りがほんのりと漂う。

まだ濡れている髪も私の胸を相変わらずドキリと震わせる。


私がそんな状態であることを知らない彼の足が止まった場所。
そこは、ミントらしき植物が植えられているプランターが足元に置かれているベランダ。
遠くのほうで鳴いている虫の声もかすかに聞こえる。


「今日、キレイな三日月なんだよな・・・」

『あっ、ホントだ・・・』


ベランダの柵に肘をついて空を見上げた彼。
その隣には自分がいる。

自分のすぐ傍に誰かが居て一緒に空を見上げる
こういう夜を過ごしたのはいつぶりなんだろう?

私は三日月の方を真っ直ぐ見つめる日詠先生の隣で自分も彼と同じように三日月を見上げた。