【Reina's eye ケース27:現実を知った夜】



私の長い夜の始まりは

『・・・・行ってらっしゃい。』

この独り言から始まった。



退院した東京の病院までクルマで迎えに来てくれた日詠先生は一睡もしないまま出勤して行った。
新居となったこの部屋でどうしていいのか戸惑ってしまった私は、”行ってらっしゃい” を言うタイミングが出遅れるという残念な結果に。


『ダンナ様じゃなくて、妹に甘すぎるお兄ちゃんなんだから。』

言わなきゃいけなかった ”行ってらっしゃい” を言えずに、
スキな人の自宅での新生活イコール新婚生活みたい・・なんてあり得ない妄想とかで勘違いしている自分にそう言い聞かせる。


『しかも、患者さんが待っている人だから・・・』


早く帰って来てね!なんて絶対に言えない
だって
日詠先生を待っている患者さん
本当にたくさんいるのを知ってるから

それに、夕飯作ってやれないなんて
私のコト、甘やかし過ぎだよ、先生は・・・


ガ、チャ・・・

この家の主が出かけてしまった後、祐希がグッスリと眠っていたこともあり、何をしていいのかやっぱりわからない。
何かすることがないかを探す私の足はなんとなくキッチンに向かう。


リビングのカーテンと同じアイボリーカラーのシステムキッチン。
食器棚には左端から食器が和食用・洋食用・中華用ときれいに分けて並べられており、右端にはオレンジ色のココットまでもが収められている。

そしてフレンチタイプドアの冷蔵庫の中も覗いてみると、
以前、病院の屋上でメロンパンを(かじ)っていた人物の所有物かどうか疑問を抱いてしまうぐらいの豊富な食材もキレイに並べられていた。