「だから、前みたいに ”病院に住んでます” 状態はやめて、ちゃんと家に帰りなさいよ。」

『・・・・・・・』

「何、そのリアクションは!!!! 絶句とか。何考えているのか、吐け~!!!!!」

『・・・俺が家にいると、伶菜が休まらないかなって思って。』


首を絞められそうな勢いだったせいで、思っていたことを正直に吐いた。
この人に作り話とかが一切通用しないことをわかっているから。

それがちゃんと伝ったのか、福本さんは珍しく真面目な顔を覗かせる。


「お兄ちゃん。」

『あ?』

「お兄ちゃんしてるのね。ちゃんと。」

『ちゃんとできているかはわかりませんが。まだ、始まったばかりですし。』


いつもの、人を茶化しながら喋る福本さんではなく、妊婦さんや経産婦さんと話している彼女がそこにいた。


「ナオフミくんの家が、伶菜ちゃん達が安心できる家になるといいわね。」

『そうですね。』


だから俺も素直に共感し、返事をする。
福本さんはなんだかんだ言いながらも、俺と伶菜を支えてくれている人だから。


「でも、ずっとお兄ちゃんのままでいられるのかしらね~?」

院内防災訓練の案内が挟まったバインダーを手渡されながら、俺に投げかけられた微妙な問いかけ。

でもその問いかけには答えられなかった。
俺にはまだ自分の中に秘めたままでいることがあるから。



「TVの連続ドラマでいうと、ナオフミくんと伶菜ちゃんはまだ3回目ぐらいかしらね~。視聴者の私はもうドキドキものよ。」

『・・・連続ドラマって。』

「ほら~、禁断の関係っていうの~?・・・”誰も許してくれなくてもいい・・・お前が居てくれればそれでいいんだ!”って、ああいうのよ~。」


またいつもの福本さんに戻ったと溜息を付いた俺に、恋愛ドラマフリークの福本さんは再びニヤリと笑う。


『・・・ドラマの見過ぎですよ。福本さんは。』


そう言うことで俺は兄という立場であることをなんとか自分に言い聞かせた。