「祐希の着替え、用意しておいてくれる?」
お風呂って、祐希の事だったんだ
はあぁぁぁ・・・
この調子じゃ私の心臓、いくつあっても足りない
『あっ、ハイ。持ってきますね。』
完全に取り越し苦労状態であった事を認識した私は締まりのない声で返事をしながら祐希の着替えを取りに行く為に立ち上がった。
こんな私とは対照的に日詠先生は今にも目を覚ましそうな祐希を楽しそうな顔をして眺めている。
「伶菜、俺、祐希と一緒にお風呂入っていい?」
先に言って欲しかったその言葉は日詠先生は少しハニカミながらそう言った。
なんか、こういう日詠先生見ていると
お医者さんだってコト
私の主治医だったコト
見事に忘れちゃう
きっとそれは日詠先生が私の目線の高さに彼の目線を合わせてくれてるから
そんな先生にこのまま甘えちゃってもいいのか心配になるけれど
お兄ちゃんなら・・先生が私のお兄ちゃんなら
いいのかな・・・
『ハイ、お願いします!!』
私も先生につられてハニカミながら、今度こそはちょっぴり締まりのある声でそう答えた。
「了解!」
日詠先生は祐希の頬をツンツンしながら浴室へ消えて行った。
しばらくして、浴室からはいつもの・・・私の大好きな穏やかな話し声が聞こえて来た。
兄妹の関係といえどもさすがにその様子を直に見に行く訳にはいかない私はリビングで彼らがお風呂から出てくるのをじっと待つ。
ガチャ!
浴室のドアが開く音がしたが、彼らはなかなかリビングに姿を現さず、どうしてもその様子が気になった私は廊下に飛び出し彼らを探した。
・・・ねんねーんこ♪♪
またまた聞こえてきた穏やかで大好きな声
・・・しかも歌声
その歌声は祐希と私の寝室から聴こえて来た。
私はそっと寝室のドアを開けて中の様子を覗き込む。
すると、日詠先生がダブルベットに寝転がった状態でベビーベットに横になっている祐希の背中をトントンしながら、”しー” と口元で人差し指を立てて私に声を出さないように合図している。
”わかりました” と私が何度も首を縦に振ると、彼は小さく笑いかけてから再び子守唄を歌い始め、私は彼の指示通り、黙ったままその姿を見守っていた。
それから10分位で祐希はスヤスヤと寝息をたて始めた。



