『先生、私・・気が付かなくてスミマセン。』
「いいや、気にするな。ここの弁当屋、結構美味いぞ。冷めないうちに食べよう。」
こんな時まで、疲れた顔1つ見せずに、私に対してごく自然な口調でそう言いながらお弁当を差し出す日詠先生。
ヘコミかけている私にいつも、余計な慰めの言葉や励ましの言葉なんかじゃなく
そういう自然な言葉や態度で私がちゃんと前向きになれるように導いてくれるこの人が
やっぱり、スキ
スキという感情を持ってはいけないってわかってる
でも、男女間のスキではなく、家族間のスキならいいよね?
それぐらいはいいよね?
『ハイ!お茶淹れます!』
「お茶もあるぞ。ほら、これ。」
『お茶まで・・・ありがとうございます。』
彼に導かれた通りにちゃんと前向きになることも私と彼の心の距離を近付けるキッカケになるかもと思った私は笑顔で返事をし、お弁当とお茶を受け取った。
そしてベッドで眠っている祐希の横で日詠先生と私はダブルベッドに並んで腰掛け、祐希を起こさないようにオレンジ色の豆電球の光を頼りにしながら静かにお弁当を食べた。
2人とも丁度食べ終わった頃に、祐希がベビーベッドの中でモゴモゴと動き始めた。
「そういえば、お風呂は入ってなかったよ、な?」
日詠先生はベビーベッドの柵に肘をついてもたれかかりながら小さい声でそう呟いた。
『あっ、お風呂、まだ入ってないです・・・・』
「一緒に入ろうか?」
お風呂って・・・そんな、まだ、ココに来たばかりなのに・・
お風呂に一緒に入るとか
そんな関係になっちゃうの?
私と日詠先生
そんな関係に????
ううん、ダメダメ
日詠先生と私は兄妹なんだから
そうだよね、日詠先生・・・?
「じゃあ・・・・」
じゃあの後は何?
じゃあ、早速一緒に入ろう?
じゃあ、やっぱりやめよう?
じゃあの言葉の使い方がわからなくなってきた
国語、苦手じゃなかったはずなのに・・・
私は思わずゴクンと息を呑んだ。



