俺の小さな願望の欠片を集め、こっそり叶えようとする今。


『・・・行こう。』

「えっ、どこに?」

『・・・俺の家。』

「えっ??俺のいえ?」


俺の欲望は大きな風船のように一気に膨らむ。
その風船がどこかへ飛んでいかないように必死にぶら下がる

そのぶら下がり方もやっぱりカッコ悪いけれど
格好なんてつけていられない


『・・・俺の家で一緒に暮らすっていうのはどう・・・かな?』

こんなにも必死になる自分がいることにも驚きだけど
今は悠長にそんなことに浸っている暇はない


俺の願望が
小さな欠片だけで終わってしまうのか
それとも
大きな風船になって彼女達と一緒に飛び立てるのか

その瀬戸際だから

その瀬戸際がどっちに転がるかは
伶菜の気持ち、ただそのひとつだけだ






『よろしくお願いします!!』


伶菜の力強いその一言。

ホッとした
嬉しかった
ずっと彼女を捜し続けた俺がようやく手にした大きな風船
新しい生活の始まりに年甲斐もなく胸が高鳴らずにはいられない

でも、必死に掴んでも、風船というものは割れてしまう可能性がある
割れたりしなくても、いつかは萎んでしまう

ついさっきまで欲しかった大きな風船が手に入った今、
欲望は更に大きくなる



「こちらこそ!さぁ、行こうか。」


いつかは姿がなくなる風船ではなく、今度は
どこまででも航海し続ける船

伶菜と祐希そして俺の3人でずっと航海し続ける ”家族” という船を手にしたい


今度はそんな大きな野望を胸に抱きながら
俺はきゃっきゃっと声を上げている祐希を抱っこし直して、地面を噛み締めるように力強く歩み始めた。