香りだけでなく、ほんわりと顔に近付いてくるホットミルクの湯気。
それにも触発され、中学生の頃、夜中まで受験勉強をしていた時に母親がよく私の部屋まで運んで来てくれたのもホットミルクだったのを想い出し、懐かしくなった。

懐かしさを胸にしながら、日詠先生が淹れてくれたホットミルクを口にする。
それはなぜか、小さい頃からずっと母親がいれてくれていたものと同じ味がした。

母親が亡くなってから自分でホットミルクを淹れるようになったけれど、いくら試行錯誤しても母親と同じ味が作れないでいたのに・・・・・・・・

その味に驚いた私はじっと日詠先生を見た。


「それ、飲むと生き返るだろ?俺もそれ、好きなんだ。」


日詠先生は壁にもたれて立ったまま、ニヤリと笑う。
何かを含んでいるようなその笑み。


「それ飲み終わったら、栄養補給とお腹の張り止めの点滴を入れるから。」

そう言いながら日詠先生は病室から出て行ってしまったから
その笑みの意味を聞くことなんてできなかった。


先生はなぜ
私がまた自分で自分の命を消そうとした理由を聞かないの?

先生はなぜ
私をまた助けたの?

先生はなぜ
そんなにもあったかいの?

この眠気はホットミルクのせい・・・・・・・・・?

もしそうだとしたら先生・・・どんな強い睡眠導入薬よりもコレ、効果がありそうだよ
でもなんでこの味を作ることができるの?



私は手の中にあるマグカップの中のホットミルクを小さく揺らしながらそんなことを思った。
そして、私はそれらの疑問を反芻(はんすう)しているうちに激しい眠気に襲われ、眠りに落ちてしまった。