『凄い混んでるな。あっ、そこ空いたから車停めちゃうかな。』
「人いっぱいですよね。お天気もいいし。お出かけしたくなりますよね!」
例えば、あまり言葉を交わさないまま到着した海老名サービスエリア
とても気持ちがいい晴天の下、家族連れでごった返す今みたいな時
『ああ、そうだな。せっかくだから祐希君を連れて少し散歩でもするか?』
「ハイ!」
運転で疲れた頭と体
それを子供を抱っこしながら皆で散歩するとか
『じゃ、早速行こうか、祐希・・君。』
「先生。わざわざ、祐希に ”君” つけなくてもいいです。祐希でいいですから・・・・祐希の抱っこ変わります!」
『このまま抱っこして歩いて行ってもいいかな?』
『さてと、行くか、祐・・希。』
彼女の子供の名を呼び捨てして呼んでみるとか
『・・・伶菜・・・も行くぞ!!!!』
面と向かって彼女の名もぎこちなく呼び捨てしてみるとか
俺の自分勝手な願望が叶わないのなら、一緒にいる今この時ぐらいだけでも、
こういう小さな願望の欠片を
自分の心の中だけでこっそりと叶えてしまおう・・
こういう小さな願望の欠片を叶えながら、大好物のメロンパンを頬張っていることに頬がまた緩む
「先生・・・・」
『ん?』
伶菜が大きくてくりくりとしているそのキレイな瞳でじっと見つめながら、俺を呼ぶこの状況にもこっそりと心が揺れる
メロンパンを食べ続けることで平静を装うけれど、
「私、日詠先生と・・・一緒に暮らし、、たい。」
でも、それを装い続けるのは難しかった。
食べているメロンパンが喉にひっかかりムセるというあまりにも格好悪い状況に陥った俺。
その上、伶菜に心配され、更に焦った俺は、
『大丈夫だ。それで・・・キミはそれでいいのか?俺が一緒に暮らすのはどうか?なんて言っちゃったから断れないだけじゃないか?・・・・・俺、自分の我儘をキミに押し付けちゃったなんて反省したりもしてたけど・・・・・』
自分が思っていたこと、そして我儘をこぼしてしまう始末。
それなのに、伶菜は
「そんなコトない・・・もしそれが先生の我儘なら、私も我儘言います。・・・私・・・・」
「私・・・・先生の、日詠先生の傍にいたい・・・・・」
淀みない真っ直ぐな瞳で、俺が欲しがっていたその言葉をくれた。