ついでに後部座席のドアも開けてやると、伶菜は俺のクルマに乗ることに対して今更、恐縮するような様子を見せる。
過去に自分と付き合っていた女性の多くが俺のクルマに乗ることに躊躇う様子なんてあまり見たことがなかったせいか、彼女のそういう様子が新鮮に見えて仕方がない。
そのせいで、
『助手席のほうがよかった?』
俺の意地悪心が刺激されるハメに。
そして、
「い、いえ。ここでいいです・・・いや、ここがいいです!!!!」
伶菜のちょっと不思議な返事によって意地悪心がKOされるという返り討ちに遭うハメに。
いちいち言動が怪しすぎる
でも、それが俺の心をクイクイ刺激している
こういうの、ツボに入るって言うんだろうな
そういう状態に陥っている俺も傍から見たら怪しすぎるだろう
こんな自分もいるなんて今まで知らなかった
こういう心の動き
それも俺の色褪せていた生活の中に鮮やかさをもたらすような差し色になるのかもしれない
「後部座席だけど、高速乗るから、シートベルト締めよう。祐希君は大丈夫そう?」
ゆるゆるに緩みそうになる自分の頬をなんとか引き締め、平静を装いながら運転し始めた。
クルマを運転し始めると伶菜は再び何も喋らない。
緊張している様子が運転をしていても伝わってくる。
このままじゃ彼女は名古屋に到着する前に疲れてしまう。
そう思った俺は、少しでも緊張した空気を変えようと祐希君がまだ眠っていないことをルームミラーで確認した上でほんの少しだけ、FMラジオのボリュームを上げた。
それが吉と出たのか、凶と出たのかはわからないが、祐希君がひゃっと声を上げた際、伶菜が体を大きく動かして彼を覗き込む様子がルームミラー越しに見えた。
祐希君は母親の顔が見れたせいか、泣き声を上げることなく眠り始める。
それを穏やかな顔で見つめる伶菜もルームミラーに映る。
そんな彼女らの姿を見た俺も穏やかな気持ちにさせられ、引き締めたはずの頬がまた緩んだ。
その後もちょこちょこと祐希君の寝顔を見つめる柔らかい表情の伶菜をミラー越しに見つめる。
こうやって幸せな気分にもさせられるこのドライブ
そのハンドルを握らせてもらえることも幸せで
今も俺が憧れている彼も・・・こんな気持ちで浜名湖までハンドルを握ったのだろうかと随分昔のことに想いを馳せた。



