【Hiei's eye カルテ23:願望という名の小さな欠片と大きな風船】



祐希君が入院していた東京医科薬科大学病院小児科病棟から駐車場までの帰り道。
そこでもまだ俺は右腕に祐希君を抱え、左手で伶菜の手を引きながら歩く。
どんどん歩みを進めるも、俺達は言葉を交わしていない状況が続く。

ちらっと伶菜の様子を覗くも、彼女は俺に見られていることを気がつかないぐらい何か考え事をしているように見える。


『・・・・・・・』


その考え事が何かが勿論、気になる
でも、それを焦って聴き出すよりも、今は
その考え事を気が済むまで続けさせてあげたほうがいい
・・・・そう思った。


途中、一瞬だけぎゅっと握られた自分の左手。
胸がぎゅっと掴まれたような感覚が降りかかる中、どうした?と彼女を覗き込むと、明らかに焦りの色が差したような空気が漂う。

さすがにどうしたかと声をかけるべきか、それともこのままでいるべきかを迷っているうちに駐車場に停めてある自分のクルマに到着。

名古屋ナンバーの自分のクルマを見て、名古屋に到着するまでまだ時間はたくさんある
・・・そう思った俺は、祐希君をチャイルドシートに座らせてあげることを優先するために、伶菜と繋いでいた左手を放し、後部座席のドアの取手に手をかけた。

その瞬間、窓の向こう側を伶菜が覗き込む。
どうやら視線はチャイルドシートへ。

それを凝視した後、驚きを隠せていない表情で今度は祐希君と俺に目をやる。
何を喋っていない彼女だが、俺のクルマの後部座席に居座っているチャイルドシートの存在に驚いているということが手に取るようにわかった。

彼女のリアクションを読み取れた嬉しさ。
それによって顔が緩んでしまいそうなのを堪えながら、俺は何事もなかったように祐希君をシャイルドシートに座らせてあげた。

その様子もじっと凝視している伶菜。
チャイルドシートのベルトを締め終えたのを見届けた彼女の視線。

今度はそれがクルマの外観へ向いているようだった。
前を見て、後ろを見て、そして俺を見る。

驚いたままだったその顔が少し和らいだ
・・・そんな気がして、少し安心した俺は


「さ、乗って。」

『あ、ありがとうございます・・・』

ようやく彼女に声をかけられた。