ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




こんな穏やかな空気、いつ以来だろう?
というか

物心ついた時には既に父親がいなかった私は
味わったコトのないこんな穏やかな空気

これも、自分なりにだけど頑張ってみた私への
神様からの御褒美なのかな?



『ハイ!』

私は一瞬、窓の外のスッキリとした青空を覗き込んでから日詠先生の方を向き、笑顔で頷きながら元気よく返事をした。

そして、日詠先生はすぐさま運転席を離れて祐希が乗っている側の後部座席のドアを開けてくれる。



「じゃ、早速行こうか、祐希・・君。」

”君” を言い忘れそうになった日詠先生は私の顔を見ながら照れくさそうな顔をして祐希を抱き上げた。


『先生。わざわざ、祐希に ”君” つけなくてもいいです。祐希でいいですから・・・・祐希の抱っこ変わります!』

私は照れくさそうな彼の顔に蕩けてしまいそうなのを何とか堪えながらそう言い、祐希を受け取ろうと両手を差し出した。


でも渡されたのは祐希ではなく、

「このまま抱っこして歩いて行ってもいいかな?」

小さなボトルシップのキーホルダーの付いた車の鍵だった。

それを受け取った私は小さく頷く。

「さてと、行くか、祐・・希。」

ボトルシップのキーホルダーを握り締めた私の目の前には、抱っこしている祐希に優しく語りかける日詠先生の姿。

普段、産科医師という仕事としているせいか
祐希を抱っこする彼の手つきにぎこちなさなんて微塵も感じられなかった。
祐希もなんだか嬉しそうに見える。


本当の父親じゃないけれど
祐希がこうやって男の人に抱っこされて散歩できるなんて思ってもみなかったな・・・

この手に、日詠先生のこの手に、
(すが)ってしまってもいいのかな?


ううん、(すが)りたい
こんな穏やかな空気を知ってしまったから


兄と妹の関係でもいい

日詠先生とずっと一緒にいたい・・・・