ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「さ、乗って。」

『あ、ありがとうございます・・・』


祐希が乗っているチャイルドシートの反対側の後部座席のドアを開けてくれた日詠先生。
親近感を感じてましたなんて言えない私はただただ慌てるばかり。



『助手席のほうがよかった?』

「い、いえ。ここでいいです・・・いや、ここがいいです!!!!」

助手席のほうがよかった?という問いかけにもっと慌て、それを隠そうを急いで後部座席へ乗り込んだ。



グレーを基調としたシンプルな車内。
かすかに爽やかなミントの香りがする。
日詠先生がエンジンをかけると、FMラジオのDJらしき声が流れてきた。


「後部座席だけど、高速乗るから、シートベルト締めよう。祐希君は大丈夫そう?」

いつの間にか運転席に座っていた日詠先生は顔だけを私の方に向けてそう声をかけてくれた。
彼の柔らかい表情にドキリと音を立てた心臓。


『あっ、は、ハイ!!!!』

「祐希君は?」

『あっ、えっと・・・祐希は・・・あっという間に寝ちゃったみたいです!!!!』

上擦る声でなんとか答え、シートベルトを締める。



「じゃ、出発。」

『は、ハイ!』

ルームミラー越しに運転手の真剣な眼差しをチラ見してしまった私の心臓の鼓動は高鳴る一方。


そんなことを知らない日詠先生はクルマを走らせてくれる。
クルマは渋滞をなんとかくぐり抜け、首都高から東名高速へ入る。
東名に入ってからは渋滞もさほどなく順調で、日詠先生の予告通り、海老名サービスエリアに到着。

日曜日だったこともあってかサービスエリア内は家族連れでごった返している。



「凄い混んでるな。あっ、そこ空いたから車停めちゃうか。」

運転に集中していたのか、暫くぶりに耳にした日詠先生の言葉もどうやら独り言。
でも、独り言でも会話するきっかけにはなるから、今の私にとってはありがたい。



『人いっぱいですよね。お天気もいいし。お出かけしたくなりますよね!』

車というある意味密室な空間で、先生と何を話していいのかわからなかった私。

ここまではFMラジオを聴いているフリをして過ごしたけれど、会話するきっかけを逃すまいと彼の独り言に対して自分勝手に返事をしてしまった。



「ああ、そうだな。せっかくだから祐希君を連れて少し散歩でもする?」

そんな私に対して日詠先生は後ろを振り返りながらごく自然に語りかけてくれる。