なんて読むんだろう?
身近にそんな苗字の人いないからわからない。

『・・・にち、、えい先生・・・?』

うっかり声に出してしまった私。


さっきまで死のうと必死だったのに
苗字がわからないとか

私、どうしちゃったんだろう・・・?


「ああ、入ってもいい?」

『・・・ど、どうぞ。』


こんな騒ぎを起こしておいて
もうNOとは言えない

何を言われるのかと肩を竦めた私の目の前にカーテンの隙間からひょこっと現れたのは
さっきの名札の写真よりも優しい顔をした彼。


「主治医になりました。ひえいです。」

『・・・・ひえい?にちえいって読むんじゃないんだ。』


私は産科医師の苗字を読み間違えていた事をひどく申し訳なく思いながらそう呟く。
今までがむしゃらに勉強する事で優等生というプライドを必死に守ってきた私にとって、漢字の読み間違いなんて有り得ない事だったから。


『・・・ごめんなさい。間違えてしまって・・・・』

「一発で正しく呼んでくれた人なんてほとんどなかった。だから気にしなくてもいい。」

そう言いながら、彼は優しい瞳をのぞかせながら湯気がふんわりと浮かんでいるマグカップを熱いから気を付けてと言い添えて私の手元に差し出してくれた。


ベットに横になっていた私は急いで起き上がって黄色いチェック柄のマグカップを受け取り、ゆっくり口元に近付ける。

そのマグカップの中には甘い香りがふんわりと漂うホットミルクが入っていた。