「じゃ、車に荷物を置きに行ってくるから、すぐに戻るからここで待っててくれな。」
彼はそう言いながら、私の大きな荷物を抱え廊下へ出て行った。
その後ろ姿を眺めていた私は ”すぐに戻るから” と言われていたにも関わらず
なぜか、名古屋の病院の外来診察室で彼に自分は出産を見届けることができないと言われたあの時に見た彼の後ろ姿を思い出してしまい
ひどく胸が痛んだ。
『あの時とは違う・・・よね?』
ちゃんと、戻ってきてくれるかな?
もうあんなさみしい想いをするの、ヤだ
やだよ、もう
一緒に
一緒に帰りたい
帰りたいよ
日詠先生と一緒に
「帰るか?・・・そろそろ」
その声にハッと気がついた時、日詠先生が軽く腰を屈めて私を覗き込んでいた。
そして彼は私の下瞼に溜まっていた涙を右手の親指でそっと拭いながら微笑みかけた後、ベビーベッドの上で手足をバタバタさせていた祐希をゆっくりと抱き上げた。
「一緒に帰ろう。」
今、一番聞きたかった言葉を耳にした私の頬には一筋の涙が伝い落ちた。
嬉し涙プラス安心した涙をこぼしたこの時の私は俯いて鼻を摘みながら、コクリと頷くのが精一杯だった。



