「日詠先生がさ、アンタの兄さんならさ、アンタの父親の大切な形見を持っているというコトは充分にあり得るからね!うん!そうだ、そうだよ!ベビー靴をここまで届けたのも、アンタの兄さんというのも日詠先生だよ、、、うん、うん。」
私と日詠先生の不可解な関係を独自の解釈によって紐解いてしまった真里は満足気な表情で、お土産として持参した手羽先を箱から取り出して勢いよく齧り始めた。
食欲をそそる手羽先の美味しそうな香りが私の鼻をもくすぐる。
でも、マイペースな真里はそんなことお構いなし。
「で、伶菜?さっきアンタが言いかけたコトは思い出した?」
真里に日詠先生との関係を理解されてしまった私は彼女に何を聴かれても、もう躊躇わなくてもいい気分になっている。
『うん、私ね。』
「おっ!とうとう思い出したか!なになに?」
『私ね、日詠先生に、祐希と3人で一緒に暮らしてみるのはどう?って言われたの・・・』
手羽先をかりかりと美味しそうに齧《かじ》っていた真里。
私の突然の打ち明け話を耳にした彼女は、その口の動きを一瞬だけ止めた。
何?なに?
真里、今、何を考えているの?
「ふーーーーん。」
彼女は全く顔色を変えることなく手羽先を再び齧り始め小刻みに頷いた。
真里・・・驚かないの?
一緒に暮らしてみるのはどう?って言われたんだよ?
数ヶ月までまで顔すら知らなかった男の人に
なんでさっきみたいに驚かないでいられるの?
『で、どうしたらいいかわからなくなっちゃって、真里にメールしたんだ。』
彼女の顔色は全く変わらないままだったけれど、手羽先を齧るのだけは止めていた。
「ふーーーん。で、伶菜は今、どうしたいと思うの?」
珍しく穏やかな彼女の口振り。
それを耳にすると私はつい自分の事でも話したくなってしまう。
『・・・私、日詠先生のコト、今でもスキで・・・だから兄妹としてちゃんと一緒に暮らせるのかなって不安に思ったり。』
「・・・・・・・・」
『私、男に捨てられた過去があるから、男の人って信じられないと思う自分もいて、どうしていいのかわからないの。』
私と日詠先生の不可解な関係を紐解いて満足気だった真里は急に真剣な表情になり、そして大きな溜息をついた。



