ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




”だから・・”という声だけ聞かせてくれた日詠先生は恥ずかしそうに笑いながら突然椅子から立ち上がった。


「そういうコトなので、急で申し訳ないけど、俺、帰ります。なにか困った事があったら、いつでも電話してな。ちゃんとゴハン食べるんだぞ!じゃ!」

『先生・・・』


日詠先生の ”だから” の前の言葉が把握し切れず、呆然としながら彼を見つめていた私はそう呟いた。
そして、そんな私に彼は優しい微笑みを見せながら、軽く会釈をして私が寝ているベッドを後にした。


『帰っちゃった・・・』


また、突然、私の前から姿を消した日詠先生
だけど、名古屋の病院で突然姿を消した時とは違って寂しくなんてない

だって日詠先生は私達を待っていてくれるから



ベッドに横になったまま、彼が名古屋へ帰るのを見届けた私。
今まで感じた事のない幸福感というモノに優しく包まれながら点滴が落ちる様子を目で追い、これから自分はどうすればいいのかについて考えてみることにした。


『ひとりで・・・』


日詠先生の言う通り仕事をしていない私がひとりで祐希を育てていくのは並大抵なコトではないと思う

でも、数ヶ月前まで顔すら知らなかった日詠先生と寝食を共にするなんて
どうしたらいいのか本当にわからないよ

しかも、こんな小さな祐希も一緒で

産科医師の仕事も寝る暇も食べる暇も無いくらい忙しいみたいなのに
家に帰ってきても私達がいることで
彼の気が休まる空間が無くなっちゃうんじゃないのかな・・・・?


そしてなによりも
日詠先生のコトがスキなままの私が彼と兄妹の関係で
本当に一緒に暮らすことができるのかな?


日詠先生からのサプライズな提案、ホント嬉しかったけれど

私・・・いったいどうしたらいいんだろう?



『難しい宿題・・・だ~。』


そんな事をしきりに考えていた私は日詠先生に直接尋ねてみようと思っていた数々の質問をなにひとつとして聴くことができていなかったこと
この時の私はそれに気付くことができていなかった。