私の言動が面白かったのか、日詠先生はニヤリと笑みを浮かべながら、彼自身にも問いかけるように語尾のトーンを上げてそう答えた。
彼のその一言で拍子抜けしてしまい、暫くポカンと口を空けたままのみっともない顔を曝け出してしまっていた。
「ゴメン。また、驚かせてしまったかな?・・・キミは一人で祐希君を育てて行くって言ってたよな?」
『ええ・・そのつもりですけど。』
「でも、仕事はしてないんだろ?」
『・・ハイ・・・解雇・・されちゃいました・・』
ポカンとしていられないような現実
でも、仕事に就いていない状況で祐希をひとりで育てていくのはこれからの私の現実
暫くは両親が遺してくれた遺産でなんとかやっていくことができるだろうけれど、
いつまでも親の脛を齧っているわけにはいかない
「・・・・・・・・」
私にこれからの現実を考えるきっかけを与えてくれている日詠先生は小さな丸椅子に腰掛けたまま背筋を伸ばし両腕を組んだ。
その顔は先程とは打って変わって、口元をキュッと引き締めた真剣な表情。
「解雇、ね・・・だからか・・・」
『・・・・ええ、まあ。』
「ま、それはいいや。どっちにせよ、女手ひとつで仕事を探しながら子育てをしていくのはきっと凄く大変なコトだと思う。」
『・・・・・・・・・』
「しかも祐希君はまだ生後2ヶ月だし、だからといってはなんだけど・・・・俺と一緒に暮らせば生活費はいらないし、暫くは仕事を探さなくてもじっくり育児に専念できるし・・・」
そう言いながら私を見つめる彼の目は凄くあったかい
「でも、俺、申し訳ないけど仕事で殆ど家にいられない・・・いる時は自分にできる事は手伝うから・・・。」
私を思い気遣ってくれる想いが凄く伝わってくる
「それでも、キミが嫌なら断ってくれても全然構わないし、いや・・・突然だから・・・こんな事すぐに返事できないよな?・・・そうだ、そうだ。だから、その・・・・」
途中からなんだか声のテンポが不規則になってきていた日詠先生。
気のせいかもしれないけれど、彼の頬は紅色に染まっているように見えた。
そんな彼を私はじっと見つめながら彼の言葉の続きを黙って待つ。
「だから、無理して欲しくないというか・・・ひとりぼっちじゃないというか・・・それをわかって欲しかったんだ・・・」
そう言い終えた彼は、照れくさかったのかすぐさま俯いてしまった。