【Hiei's eye カルテ19:彼女達を想ふ】




伶菜がICUへ運ばれた息子に手術後初めての面会へ行き、ひとりきりになった俺。


「都内にもびっくりするような不動産物件があるんです!!!!!」

「え~ホントですか?」

「本当なんです!!!!! 駅まで5分の距離の2LDK。新婚さんとかにオススメなんです。おいくらだと思います?」

「え~都内で、駅近ですよね?結構するんじゃないですか?」

「お値段はCMの後で!!!!」


ややテンション高めで掛け合いをする会話が聞こえてきたことによって、TVがずっとつけっ放しであったことを今頃気がついた。

所々、名古屋で観るCMとは異なる耳慣れないCMが流れている。
それによってもここは地元じゃなく、東京なんだということを改めて思い知らされる。


この東京に伶菜は妊娠9ヶ月から今までずっと滞在している。
伶菜にこの病院への転院を勧める前、ここの敷地内には入院する子供の付き添いをする家族のための滞在施設があることも調べ、彼女に渡した書類にもその施設の案内を添付した

おそらく彼女は今、そこに滞在して息子の面会に来ているはずだ
でも、いつか彼女の地元でもある名古屋に戻ることになるだろう

ひとりで息子を育てなければいけない彼女
確か仕事も辞めたと聴いている
両親が遺した遺産は少なくはないはずだ
でも、それだけに頼っていたら、いつかは底をつくだろう



『子供の父親は・・・当てにはならないだろうな。』


祐希の手術日であっても姿が見られない祐希の実の父親と伶菜はほぼ縁が切れていると思われる
ウチの病院に入院していた時も、杉浦さんという彼女の親友が身の回りの物を用意していたぐらいだし

確かその杉浦さんも仕事の関係で名古屋とボストンを頻繁に行き来しているはず
だから、この人もあまり当てにしてはいけない人だと思う


『じゃあ、誰がいるんだ?』

お節介なことだとわかっているものの、伶菜と息子の未来を気になる俺


伶菜の交友関係なんて知らない
伶菜の親戚関係も8才で高梨の家を出た俺はいちいち把握していない

伶菜はこれからどうするんだろうか?