ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



『・・・ありがとうございます。先生の、日詠先生のおかげです・・・』

そう言いながら、自然に笑みがこぼれる。



「いや、俺・・・何もできなくてゴメンな。」

『何もできなくてゴメンだなんて、そんな・・・こんな遠方まで足を運んで頂いて。もう充分過ぎるぐらいです。』

「充分すぎ・・・か・・・」

『・・・・・・・・・?』

私が余計なことを言ってしまったのか、項垂れる日詠先生。
お礼を言ったつもりだったのに、何が日詠先生にこうさせてしまっているのだろう?と考え始めたその時だった。



「もしキミが良ければ今からでも・・・その・・・役に立ちたいな・・と思っているんだけど・・・」

日詠先生は私とは対照的な申し訳なさそうな表情をしながら、歯切れがいいとは言えない口ぶりでそう言った。


『いえ・・・さっきも・・・さっきも申し上げましたが、充分色々と手を尽くして頂いて、ホント感謝してます。』

そんな表情をされた私まで慌ててしまう。



「だから、その・・・」

『・・・その?』

眉間に皺を寄せながらはにかむ日詠先生。




「だから、その・・・ベビー・・・祐希クンが退院したら・・・俺とキミと祐希クンの3人で一緒に暮らしてみるのはどうかな・・・って・・・」



えっ~?!
一緒に暮らすって・・・・というコトは?

同居?


でも私、たった今、祐希が無事に自分のもとに還って来てくれたばかりで
それだけでも地に足がついていない状態なのに

”一緒に暮らさないか” なんて
どういうコト・・・?


なんでいつも日詠先生は私の心の状態が普通とは言えない時に
そういう大事そうなコトを口にするんだろう・・・?

ああ・・・目の前に薄暗いカーテンみたいなモノが下りてきた

まただ
あの時・・・名古屋の病院で”日詠先生に自分はキミの兄だ”と言われた時と一緒だ



そう思った直後、祐希の無事を祈り続けて緊張状態な上に、彼の突然の提案に驚きすぎた私の記憶はそこで途切れた。