「高梨さん、祐希クン・・こっちにいらっしゃいますよ!」


さっき待合室まで私を呼びに来てくれた看護師さんが、お医者さん達が集まっている場所の近くから私のほうに向かって手招きをする。
その瞬間、そのお医者さん達は2,3歩後方へ下がりながら一斉に私の方を向いた。

少し広がったお医者さん達の円陣の真ん中には私が探していた小さなベッドがあるのが見える。

・・・・祐希


恐る恐るその小さなベッドの方に歩いていく。
すると、目は開いているものの、両腕と胸に繋がっている何本ものチューブと人工呼吸器らしき管が口から挿入されて・・いかにもぐったりとしている祐希。
そして、聴診器で彼の胸の音を聴いている東京の日詠先生の姿が目に飛び込んで来た。


私は本当に大丈夫なのかと不安になり、ベッドのすぐ傍までにはなかなか近づけない。


「高梨さん。祐希クン、本当によく頑張ったよ。声かけてあげて・・・・・」


どうしたらいいか戸惑っている私の姿に気がついた東京の日詠先生は聴診器を耳から外して首元に掛けながら、優しい笑顔でそう声をかけてくれた。


先生のそんな笑顔で私はようやく祐希が助かったという事を実感できた。
そして、大勢のお医者さんがベッド周囲を取り囲む物々しい空気の中だったけれど、祐希に声をかけてあげるように勧められた私は恐る恐る祐希のベッドに近づいた。


『祐、、、希、、、?』



祐希はまだ目がトロンとしていたが、私の声に反応したのか、私の方へその目を動かしてくれた。


「手、握ってあげて!お母さん、ここにいるよって教えてあげて!祐希クン、きっと喜ぶから」

私が怯えているのに気がついたのか、東京の日詠先生は私を諭すような口調で私を誘導してくれる。


『・・・ハイ』


私は先生に言われた通り、祐希の小さな手をそっと手に取り、優しく握ってあげた。
ゆっくりとではあるけれど、祐希もちゃんと小さな手で私の手を握り返してくれた。

ほのかに温かい彼の手によって、改めて彼がちゃんと私のところに還ってきてくれたとう実感を得られた。