「1才まで一緒にいたんだ・・・私、母親から兄がいるなんて聞いたことなかった。」
「先生はその後、どうしていたのですか?」
高梨の家にいた幼い頃の俺の存在
伶菜はそれをお袋から知らされていなかったんだ
正直、寂しい
俺にとって、高梨の家にいた時間
それは今までの俺の人生の中でかけがえのないものだから
それがなかったことにされているみたいで・・・
でも、他人を思い遣る心を大切にしていたお袋のことだ
伶菜に俺のことを伝えていなかったのは
多分、何か事情があるのだろう
『俺はその後、今の日詠の家に引き取られたんだ。親父みたいになりたくて・・ただ親父みたいになりたい一心で高梨の家を出ることを選んだんだ。』
お袋は伶菜に ”父親はプラネタリウムの研究員だった” と言っているみたいだが
彼女の兄という自分が憧れる親父は ”産婦人科医師”
・・・そういう事情があるように
俺の告白を聴いた伶菜はいまひとつピンときていないようで、なんで高梨家を飛び出してまで医師になりたかったのかと俺に尋ねてきた。
その問いかけで俺は想い出した。
8才の俺がまだ赤ん坊だった伶菜、お袋とサヨナラをした日を。
『・・・俺には、どうしても守りたいモノがあったから。』
死んでしまった親父の代わりに
いつか俺が彼女達を守る
そう誓ったあの日を。



