俺をそんな気持ちにさせてくれた彼が俺達の前から立ち去るその背中を見つめた瞬間、頭を過ぎった声。
”ナオフミくんだからできる支え方もあるってことを忘れないで。”
以前、福本さんが俺に言ってくれた言葉。
俺だから伶菜にしてやれること
それは残念ながら主治医という立場では何もなかった
でも、俺と伶菜の間にある関係は主治医だけじゃない
今のように ”自分が彼女の傍にいる”
そういう選択肢があってもいいんじゃないか?
改めてそう思っていた俺を心配そうに見つめる伶菜。
また気を遣わせちゃったか
そんなつもりはなかったんだけどな
『高梨さん。面会までまだ暫く時間がかかりそうだから座っていたほうがいいんじゃないか?』
本当は俺が気遣ってやらなきゃいけないのにと思いながら、口角を引き上げて笑みを作り、彼女に向き合う。
それでも、会話を交わしていないせいか、まだ彼女は心配そうで。
さっきは言葉はいらない・・・そう思ったりもしたけれど、今は
『これ、冷めちゃったか・・・・』
難しい言葉でなくてもいい
息をつけるような言葉を発したほうがいい
そう思った。
「先生?そのホットミルク、どこで入れてきてくれたんですか?」
心配そうだった伶菜も俺のペースに合わせてくれる。
いい風が吹き始めた、そうも思えた。



